郷里を長く離れ、他の国々の空気を吸ってきた・・・。
 だが、私はこの町に戻って来た。これも大いなる神の仕業だろう。
 この物語は、ゴッドウィン・タウンという、ウエスト・ジャパンの或る町にて起きた出来事の集積だ。
 実際のところ、私のこの町での多くの想い出は八〇年代に集中しているのだ。一九八〇年代は日本の歴史上最もエキサイティングな時代のひとつである。そして、あの時代の再生はもう出来ない。過ぎ去ったソビエトのようなものだ。私はソビエト主義者ではない、ただ、もう再生することはないという例えだ。
 そしてインターネットの時代が来た。
 八〇年代の興奮は、情報への渇望だった。不足していた情報を想像で補完した。それが時代のクリエイティビティに繋がった。
 インターネットは世界の多くの秘密を明らかにした。
 だが、意味不明の事象の中に新しい発見があるものだ。
 インターネットは意味不明のデータを掲載している事も多い。
 ゴッドウィンが沢山の不可解な現象の発生地となっているようなのだ。
 私が町に戻った理由のひとつだ。
 また、わたしは、プレジデント、と名のる謎の人物の指令を受けている。彼の本当の顔も知らない。いくつかある、彼のアバタールに会っただけだ。だが、それでよかった。深くはつっこまない。彼の助言でもあった、このゴッドウィン探索は・・・。
+++
私がかつて生活して居たセカイ。
 小さな町。
 ゴッドウィン。
 半世紀以上前、ここはオレンジファームで賑った。その時代はフルーツブームだった。フルーツで財を成したファミリーも多かった。しかし時は移ろうものだ。時代の変遷の中で海外農産物の輸入が増大し、この町はファーム経営を次世代型に切り換えるタイミングを逃してしまった。フルーツジュース・メーカータウンへと変貌を遂げられなかったのだ。
 その後、人口は減った。
 最盛期には活気があった。
 住民は当時五万人は居ただろう。町自体は江戸期以前からあり、商業も栄えていた時代があったと歴史は語る。それは遥か昔の日々だが。
 私の幼少期、この町は高度成長期から続いたフルーツブームと同期し、オレンジ栽培とその流通が一大産業でもあった。もともと密林・原生林の多様なゾーンでもあったのだが、当時のバブル経済の為に無用な開発と造成によって削り取られた山々もあった。
 ゾーン中央を流れるY川は、町の産業でもある林業に貢献した。材木は舟によって下流の都市へと運ばれたのだ。
 私は九歳であった。それらの状況を見て、おぼろげに記憶しているだけだ。記憶が本当にあった事かさえ、もう定かではなくなってきている。
 *** *** ***
 ・・・ ゴッドウィン。
 もはや子供時代の、あの日の記憶しかないのだが・・・。
 あれは、ほんとうに起きたことだったのか、あの場所は、ほんとうに在った場所だったのか?
 探求がはじまった。
 山の向うのクレーター。
 九歳の日の記憶。
 私は、パジェロミニを走らせた。
 *** *** *** *** ***
 ゴッドウィンは小さな町。
 小さな世界。
 エレメンタリースクールに通っていた頃、私は此のゴッドウィンの外の事は殆ど何も知らなかった・・・。
 町は四方を山が囲んでいる。ゴッドウィンに入るには西山のトンネルから入境することになる。
 西山を貫通するように造られたトンネルは異様な外観をしていた。トンネルの周囲は東南アジアのジャングルを凌ぐ密林に被われていたし、其の地盤は南米ギアナ高地よろしく巨大な岩々の連なりだったのだ。トンネルが無かった時代には落武者が西山を越えてゆくヴァニシングポイントでさえあった。
 エレメンタリースクール時代、私にとって『西山トンネル』の向うの世界は想像上の場所であった。
 トンネルの向うは外部{GAIBU}、・・・その情報はゴッドウィンのキッズワールド(子供らのバイオスフィア活動圏)では完全に遮断されていたのだ、二軒のブックショップと一軒のサウンド(レコード)ショップを除いては。
 *** *** *** *** ***
 そうは言っても、日本中にゴッドウィンみたいな町は無数にあるはずだ。
 そんなに特別だったわけではない。
 八十年代には、どこかアメリカの田舎町を思わせるジャパニーズタウンは多くあった。GHQのオキュペーションは日本のアメリカ化を促したからだ。
 現在、世界に覇権を持った、ジャパニーズカーとジャパニーズアニメだが、車文化とアニメ文化は戦後USAからもたらされたテクノロジー&カルチャーのジャパナイズ版だ。忘れがちだが。
 田舎生活にも、それらは八十年代にはすでに国産文化のように浸透していた。その情報は当時、ブック&サウンドで我々の生活に入って来ていた。
 だが、当時の田舎では情報源が非常に少なく、我々は貪るようにブックショップとサウンドショップに出入りした。
 それでエレメンタリースクールは、噂(ゴシップ)の宝庫だった。そこでスチューデントが話すことは、あることないこと様々。あの有名なフロリダ州のタブロイド『ウィークリー・ワールドニュース』も真っ青。
 だが、親戚の子らの話を聞いていると、今のスチューデントも同じらしい。
 レン、ジョージ、ユウイ、カイ、ミライ、タイチ、・・・あの頃ゴシップトークに夢中だった友の記憶が頭を過った。
 ふと、パジェロミニから外を見た。
 川があった。
 綺麗な小川だ。
 川で衣類をウォッシュしている少女が居る!
 *** *** *** *** ***
 この土地には、何故かブリテン島のカントリーサイドを流れているような川が幾つかある。
 少女は、そんな川のひとつで、何かをウォッシュしている。
 そういえば、此の辺りは『コミュニティ』があった・・・。
 自然と合体しながら生活するコミュニティ。川の水流は動力源だった。水車が粉を挽く。いまもそういう生活者がいるのだろうか。
 歳の頃は、我々の子供ぐらいの年齢だろうか・・・。少女はちらと、こちらを向いた。
 十歳位の子供の顔だ。そう思った。だが其の瞬間、ザザッと彼女の顔にブロックノイズのようなものが見えた。そして次の一瞬、一秒程だろうか、彼女の顔が人間のそれと違う、何かに見えたのだ。
 その顔は宇宙人特集テレビ番組に出て来るような、そう、『リトルグレイ』{英語では、グレイ・エイリアン}と呼ばれるアレ、つまり私には地球外からのエイリアンにしか見えなかったのだ。なのに私は驚愕という程に驚いたわけではない。
 この町、ゴッドウィンに何らかのエイリアンが暮らして居るって事は、エレメンタリースクール時代から感じていた。当時のスチューデントらの噂話では、学校のそばの中華拉麺店の店主はあの日本が誇る国際俳優・高倉健に似ていたけれども、ほんとうは宇宙人{SPACEMAN}だと云われていた。そんなある日「これが店主の正体だ」と、ひとりの友人が私にイラストを描いてくれた。
 *** *** *** *** ***
 友人が描いた、其の中華拉麺店店主の正体はリトルグレイそっくりだった、頭部が平たい事を除いて・・・。へんなイラストだったが、妙なリアリティもあった。
 そして、さっきの少女が一瞬見せた顔、・・・あの思い出の似顔絵イラストを彷彿させるものだった。
 そんな風に私のパジェロミニは、少女が居た小川の辺りを走り過ぎた。だが、バックミラーで確認すると少女の姿は無かった。
 そのまま私はクレーターのある南山の山頂ゾーンへ向かった。
 このゾーンでは、あの歴史的日本八十年代後期バブル経済期間に大規模年金保養施設建設の為の山地造成が成され、当時流行ったハコもの建設が施工された。
 それらの半分以上が今は廃墟となっている。
 その原因はメテオ・インパクト。つまり隕石落下が南山の向う側で起きたから。
 この隕石はさほど大きいものではなかったが、宇宙からの落下の衝撃で直径二百五十メートルのクレーターを形成するには充分だった。
 そんな事があったことも私はイタリア生活の中で忘れてしまっていた。
 記憶が、ほんとうだったかどうか確認しに来たのだ。
 山頂辺りに着くと、そこには廃墟になったキャンプ施設がまだ壊されずに古びたまま残っていた。
その向こうに、クレーターがあったはずだ。
 あった。
 しかし、三十年という時を超え、それは湖となっていた。
 だが、しかし私はふと思った。これは本当にクレーターだったのか?
 もともと湖ではなかったのか?
 宇宙から落下した隕石が直径二百五十メートルのクレーターを造った、なんてそもそも誰が言い出した?
 あの日のクラスメートらじゃなかったか?
 新聞記事じゃなかったと思う。
 確かな情報だったのか?
 *** *** *** *** ***
 そうだ。私は、自分の頭の中で友人から聞いた噂話の『クレーター』を空想していただけだったのかもしれない。このキャンプ場を使った思い出もない。だが、このキャンプ場でキャンプをした、という空想を頭の中で構築していたのだ。なぜか? そう、私はあのキャンプに行けなかったのだ。私の他の全ての同級生が参加したキャンプだったのだが・・・。私は行けなかった。当時通っていた学習塾の合宿があったからだ。その後、同級生の友人らとの関係は、なんとなくよそよそしいものになっていった。『彼ら』と『私』という隔絶された雰囲気がどこか漂った。私は『欠落』を補完するように、友人らのお喋りからの情報を空想によって再構築し、『想像上のキャンプの記憶』を脳内につくりだしたのであった。私の真剣さが、その記憶をいっそうリアルなものにした。子供が何かに真剣になるとき、恐るべき力を発揮するものなのだ。湖を見ながら、私はあの時代に私が感じていた事をリコールした。つまり、この湖が隕石で出来たクレーターであるという確証は私には無いのだ。だが、この湖には何か得体のしれない空気が漂って居る・・・。
 ゴッドウィンは太古から宇宙の神秘と無縁ではない。近隣の村には『天翔ける舟』が降りて来ていたとされる大岩もある。其の村には天文台が在るのだが、宇宙からの訪問者がそこで何度も目撃されたという情報もある。
 しばし岸から湖面を眺めたあと、私はそこを去り再びパジェロミニに乗り込んだ。東山(通称キャスルヒル)へ向かう為だ。ダッシュボードに数日前に買って忘れていたミルキーチョコが入っていた。疲れた頭には丁度良い。
 南山を麓まで下った。
 南山は古くから人々が住みついていた。その中腹には仏教徒が祈りの時に使用する、線香を生産する手工業があった。山幅は広く、Y川に沿って広がっている。Y川は南山を背にすると右が上流となる。トラッカーらがよく使う道路もY川に沿っている。Y川上流の方向へ向かえばアッパー・マコンドに行ける。南山の麓から三つの道に分かれる。右へ行くと山深く、シャーロック・ホームズとモリアーティが決闘した断崖のような光景がある。左へ行くとY川の下流へ向かって進むことになる。こちらはうっそうとした南米的ジャングルのような道になっている。かつて、この道の入り口には遊郭があったという。もう少し進むと映画『キャット・ピープル』の舞台のように、猫の一族がたむろしている木々が現れる。この道は散歩するには面白い。その先に『南城の古塔』と呼ばれる遺跡が在り、そこから向こうがトラッカーたちの集荷場。(『南城の古塔』は『南総里見八犬伝』に登場しそうな雰囲気。) 三つ又の中央を行くと、ミドルスクールが在る。その脇からキャスルヒルへの登山道に入れる。キャスルヒルの歴史は古く、ゴッドウィン・エリアの歴史的キリシタン大名バルトロメオ公の時代に遡る事が出来る。
 登山道を登っていく。ゴッドウィンの人口が近年著しく減少した為、登山者も減りキャスルヒルのかなりの面積が原生林に還ろうとしていた。だが、原生林の奥に、誰が造ったのか、・・・チャペルを見つけた。『聖マザーテレサチャペル ゴッドウィン』、そう書かれていた。此のキャスルヒルには聖母マリアが出現したという地元の伝承もある。聖母マリアは世界のいろいろなところに出現している記録があるが、それは至福の出来事である。
 ゴッドウィンは不思議な町だ。あの通り過ぎた川縁の少女は誰なのか、私はあの場所へ戻る。其処にはアート・インスタレーション(モティーフはイエス・キリスト)が在った。声が後方から聞こえた。
「T・ホークシャー蔵雄君・・・? 蔵雄くんじゃないの?」
 私の名を知る人物が居るとは・・・。一体誰なのか?
 私はふり返り、見た。
 その洒落た感じは、思い出すのに十分だった。
 「君は、水木りん・・・!」
 水木りん、・・・私が九歳の頃のクラスメートだった。
 或る日、別の国へと引っ越して行った子・・・。
 私は思い出す。
「たしか、君はフランス及び日系アメリカ人だったよね。君との思い出は、よく一緒に登校したこと・・・。君のママは、朝、私が君を迎えに行ったとき、寒い日にはいつも私にホット・ミロをつくってくれた。」
 りんは答える。
「そうだったよね。だけど、うちの家族は、あの年の終りに密かに海外へ引っ越した。お別れ会とかする時間も無かったね・・・。今は話せるけど、父はアメリカ連邦警察FBIのアジア支部に居たんだ。それで、ああいう形になった。」
 私は聞く。
「それで、・・・・・君は戻って来たの?」
 りんは言う。
「そう。この町は変わってるからね。アーティストとしてのモティーフが多い。今は永住権を取ってツリーハウスに住んでいる。」
 私は、りんのアート・インスタレーションのキリストを見て言う。
「君はアーティストになったのか・・・。」
 りんは言う、「君のお父さんは壁画家じゃなかった?」
 私は言う、「銭湯の壁画だ。ほとんどはね。」
 私は問う。
「この町ゴッドウィンで何かが起きていると思うか?」
「正確に言えば、何かが起きつづけている。」 りんは、そう答えた。
 その時上空を、重・多用途ヘリが横切った。   
VAD,VAD,VAD,VAD,VAD・・・
VAD,VAD,VAD,VAD,VAD・・・
 静けさを裂く轟音。
VAD,VAD,VAD,VAD,VAD・・・
VAD,VAD,VAD,VAD,VAD・・・
 りんは言う。
「あれだ。アレが関係してる。アメリカの財団だ。今のは、その財団のヘリだ。今の方向だとY川の下流の方、・・・トラッカー集荷場辺りの広場に着陸したな。ものものしいな・・・。おそらく、SCPと関係がある。」
「SCP?」
「SCPとは。 自然法則に反した存在・物品・場所・現象をSCPオブジェクトとしてファイリングする動きさ。特別収容(スペシャルコンテインメント)プロトコル・ナンバリングで、多くの国際組織がファイリング競争を激化していると云われる。SCP財団という謎の財団の存在も囁かれているよ。」 SCP情報を多く保有する事が、今世紀の国際社会での威信に関わるとさえ考える研究者らが居るという。一九五二年に米国ウエストバージニア州{FLATWOODS}に飛来したとされる『UFOと宇宙人のロボット』は、そのひとつとして、あまりに有名だ。
 りんは言う。
「Y川に沿って行ってみよう。途中、工事中で車両通行出来ない場所がある。だが、歩きで行ける距離だ。そうはかからない。」
 Y川に沿って歩いていくと『キャットピープル』のような猫一族の棲息区に入った。
RØDEマイクロフォンみたいなものを猫に差し出す一人の女性が居た。
 りんはその様子を見ると、草むらにサッと身を隠した。私もとっさに、そうした。
 りんは言う。「あれ、さっきのヘリに乗ってた人物だよ。あのタイプのジェットブラックヘリは、基本的には財団の地球外生命ディビジョンに関係したアクションに使用される。そして、彼女が持っているマイクロフォンは、FBIが捜査用に開発したマシンだ。」
 私は驚く。
 りんは言う、「あのマシンは、『キャット・コネクター』だ。人間と猫のコミュニケートを可能にするものだ。猫の行動範囲は広い。様々なものを見ている。彼らから情報を集めることが有力な犯罪捜査になる。そのために、FBIは開発したのだが、あらゆる捜査に秘密裏に利用されている。」
 私は、何でそんな事、知ってる?・・・という顔をしていたに違いない。
 りんは言う。「じつは、父が開発中のプロトタイプをひとつ持っていた。今もそれ、多分動く。ツリーハウスに置いてる。・・・今の様子じゃ、財団も殆ど何も掴んじゃいない。この農道には何匹も猫が住んでいる。彼らの方が今は、人間の誰よりも情報を持っているだろう。」
 *** *** *** *** *** 
 翌日。
 私は猫一族の棲息区でチーズを持って、待っていた。
 りんはキャット・コネクターのケースを抱えてやって来た。
 りんは言う。「これがキャット・コネクターだ。プロトタイプの試作機の一つだが。父がFBIに居た頃、使うこともあったようだ。彼はもう引退して南フランス・プロバンスで事件捜査とは無縁の日々を過ごしている。父はあの頃、FBIレガットと呼ばれる国際捜査支部に居たらしい。今思うと、支部は掴んでいた、このゴッドウィン・タウンにおける宇宙人の存在の痕跡を。 ・・・・・ もちろん、FBIには守秘義務がある。父はハッキリとは言わない。」
 私はりんに真顔で問う、「では、FBIは宇宙人を捜査するために、八十年代のアジアに入り込んだのか?」
「そうだ。そして四十年前のレガットのファイルインフォを現在財団がうけついでいる。冷戦構造の破綻は進歩ではあったが、細分化した力が新しいバランスを模索しているのが現在だ。財団は四十年前のインフォ・デジ・ストレジを何らかの方法で買い取ったのだ」・・・そう、りんは断言した。
 りんは続けて言う、「ゴッドウィンでは四十年前から、SCP目撃情報が多数あったらしい。九十年代には、UMAと日本で呼ばれていた謎の生物たちだ。それらは元々地球上の生物ではない。」
 私はチーズを紙皿に載せて、農道の脇に置いた。昨日とは模様の異なる猫が現れた。
 りんはキャット・コネクターのマイクロフォンを、その猫に向けて喋りかけるのだった。
「猫さん。君らが知っている事も教えてくれ。チーズがご褒美だ。」
《数世代にわたりゴッドウィンに住んでいる猫一族から得た情報》
●Y川の支流を北へ進んだところに、秘密のコミューンがある。
●秘密のコミューンでは宇宙人と地球人が結婚し、共に暮らして居る。
●そのコミューンでは、新しい世代が生まれている。
●衣類を小川で洗っていた宇宙人少女は新しい世代なのだ。ハイテクで素顔を隠している。
●宇宙人らの世代交代のスパンは地球人と同じ位。結婚に支障は無い。
●『Y川支流北』にはSCPが棲息している。
 ゴッドウィン・タウンの西インダストリアル・エリアには、毎晩、明かりが灯り何か重工業プロダクトを製作しているらしい工場がある。目撃者の話では、重工業パーツが出来次第、何度も何度も、南山奥の湖の方面へトランスポートトラック・カーゴで運ばれているという。
 どうやら、もう一度、南山の湖へ向かう必要がありそうだ。
 我々はキャット・コネクターで猫らとコミュニケーションを取った、彼らの身体を使わせてくれ、と。キャット・コネクターによって、猫らとリンクし、我々の意識で彼らの身体を動かせるようになる。ただし、彼らがオーケーしてくれれば、だが。
 チーズ・二キロでディールだった。
 猫の身体の方が潜入に怪しまれないはずだ。
--- 猫の身体を借りて ---
 我々は、猫の素早さで、猛スピードで南山を駆け上がった。
 猫の身体は動きやすい。小さいので、様々な処にも忍び込める。しなやかに小道や隙間を通れる。南山の湖の岸辺にあるキャンプセンター・ビレッジビルディングは施錠してあったが、うまく忍び込めた。
 随分つかわれていなかった様子だ。
 八十年代の映画ビデオカセットや、ビデオゲームのロムカセットが沢山放置されていた。キャンプに集まった子たちが遊んだのだろうか。八十年代の漫画雑誌もある・・・。GOROGOROコミック・・・・・・・。なつかしい。そこには、アノヒ・・・、時が止まったかのように、八十年代の代物が放置されっぱなし・・・。となりの部屋に行ってみると、紙粘土細工の黄色い猫が・・・。子供の作品のようだ。他に、二十以上、そんな紙粘土細工が放置されていた。小学生キャンプのリクリエーションで作った作品群だろう。
 八十年代には、こうした子供たちのカルチャーが日常に存在していた。それはデジタルという潮流により、ネットワークに置き換わって来た。ティックトックが現代キッズのカルチャーになっている・・・。世代は前に進んでいく・・・。
 部屋の中央には、不思議なピラミッド型のマシーンが置かれていた。そのマシーンから伸びる幾つものヘッドフォン・・・。
 その又隣の部屋へ行く。
「エッ?」
 そこは、バイオメカニカル化されていた! 何か八十年代のSFアニメ映画に出そうな雰囲気だ。シルバーメタルと、ギーガー的生物感、そしてゴールドカラーのギラギラした、超超ラージスケール集積チップ連結マーブルが、おそろしく巨大なデータを処理しているように光っていた。 
 ・・・量子コンピュータ? 
 だとすると、コレが何のために動作しているのか。
 それに繋がる、GAMEマシン。そこに刺さる『平安京デジタリアン』というロム・カートリッジ。
「なんなんだ?」
 ロムに接続された電子ラインは、未来的なマンホールの下のスペースに続いていた・・・。
 マンホールのフタを開けようとすると、・・・その時、西インダストリアル・エリア・トランスポートトラック・カーゴがやって来るのが、窓から見えた。
 よく見ると、トランスポートを運転しているのは、あの高倉健似のラーメン店長だ。髭がサンタクロースくらいになっているが、まさにあの人だ。となり助手席には川縁で布をウォッシュしていた少女。親子? 宇宙人の親子なのか?
 我々は、トランスポートの荷台に飛び乗った。
 トランスポートが、湖の縁まで進むと『ブオーン』という音と共に、その車体全体がバブルのようなものに包まれるのだった・・・!
 トランスポートは、我々も乗せたまま湖底へ・・・・・・・。
 そこには、(水を遮断する)バブルに包まれた建造物があり、それは村のようでもあり、その中央に巨大なUFO(宇宙船らしきモノ)が見えた。
 トランスポートは、UFOへ向かった。トランスポートが運んでいたのは、UFOのパーツだったのだ。
 高倉健もどきの男とその娘は、トランスポートを降りると纏っていたデジタル変装を解除した。ブロックノイズと共に地球人の姿が消え、彼らの本当の姿が見えた。グレイ・エイリアンだ!
 我々は排気土管に入り、逃げた。
 土管入口付近に宇宙人の子供らが遊んだと思われるスケボーが落ちていた。
 それに乗って、土管を駆け抜ける。りんが言う、「蔵雄君! キャンプ・センターのアレ、覚えてる? 多分、あのピラミッド・マシーン、あれ、記憶書き換えのためのマシーンだ!」チュパカブラが追ってくる! りんが言う、「チュ、チュパカブラだ! UFOがよくやって来るっていうメキシコに棲息している宇宙生物・・・!」つぎつぎに、不思議なモノがやってくる! どういうこと? そういえば、記憶書き換えマシーン・・・、思い当たる事がある。あの日、キャンプの後日、だれも宇宙人の存在に言及しなかった。そして、みんな、まるで別人みたいに見えた。記憶書き換えマシーンのせいだ・・・! 土管の出口が見えて来た! チュパカブラが猛進してくる、我々は土管の出口へ急ぐ。土管の出口で、土管口の脇につかまる。猛進してきたチュパカブラは、スピードを落とさず、谷底へ!
 我々は崖をあがり、原っぱへ出る。原っぱの上空の雲間からサーチライトが落ちる。現代の飛行機とは形状の異なる、飛行メカが目の前へ! それは、コロンビアのジャングルの墓所で発見された、千五百年前の『異星人の飛行機械』とされる、黄金の模型にそっくりだ。私は叫ぶ、「これ、オーパーツとして有名なヤツだ!」それは、我々の前に着陸し、そのハッチを開くのだった。
 ハッチの中から、あの高倉健似の宇宙拉麺シェフが現れる、「選ばれし者よ、平安京デジタリアで、タイム・エンペラー・システムを破壊せよ。我々は敵ではない。」
WE CAME IN PEACE.
WE CAME IN PEACE.
WE CAME IN PEACE.
 宇宙拉麺シェフは言う。
「チュパカブラは火星種の生物で、我々がこのハビタブルエリアに入植し
たときに入り込んでしまった。スマン。」
  高倉健似の宇宙人との会話の中で、多くの謎が解けた・・・。
 平安京デジタリアン、と名付けられた八十年代のロム・カセットのゲームワールドに、イーブル意識『タイム・エンペラー』が封印されていた。それは、あの時代の光ディスク・ゲーム形式だった。宇宙人らは高度なテクノロジーで、地球のゲームカセットカートリッジを改造していた! それは、
宇宙的VR空間とのコネクトさえ可能にしていたのだ。決戦の場は宇宙人らの技術により、VRスペースに持ち込まれていたのだが、それに参戦する選ばれしデジウォリアーが現れていなかった。『コードネーム:平安京デジタリアン』、そのセントラル・プログラム『タイム・エンペラー』は擬人化さ
れたシークレット地球開発プログラムだ。だが、このプログラムは八十年代に考案されたもので、すでに古びた開発意識を持ち続けているのだ。開発者は去り、『タイム・エンペラー・システム』のみが動き続けて、地球崩壊への間違った道の途上に居た。これは、GAME化されたコントロールメソッドで動作しており、古びた開発意識を、RE・IMAGINATIONし、エコシステム化するために全プログラムを改変するには、ウォリアーが、そのGAMEに参加し、擬人化したリーディングプログラム『タイム・エンペラー』と、動作システムを二十一日間で断ち切り、意識システムを刷新するしかない。
 宇宙人は言う、「『タイム・エンペラー』は分断を主張する過去的人類意識の権化だ。過去の分断を継承させんとする権力を行使しようとする意識だ。だが、時代は変わろうとしている。地球規模の気候変動、グローバルクライシス、もう国家主義では対応できない。新しい世代は感覚的に受け止めている、もう、変わらねばならないと。すでに国家主義、民族主義は過去のものとなり、グローバルクライシスを人類全体の問題として解決するために考える時代が来ている。人類の心に期待している。」
 宇宙人との会話で分かったこと。
* 湖に落ちていたのは、隕石ではなく、宇宙船。(かつて火星に存在した、インテレクチュアル・ビーイングが、自ら起こした環境破壊によって住環境が壊滅したために、ゴッドウィン南山奥ジャングルに舟で移住し、彼らは古代からひそかに住み続けていた。 ・・・バブル時代の開発でジャングルが消され、彼らのハビタブルエリアに人間がはいりこんだ。)
* 火星の住環境の崩壊は気候危機がまねいた。不必要なものを無駄につくってそれを過剰に消費し続ける社会構造・社会形態が、土地・惑星・大地・ハビタブルゾーン・海を汚染し、けがしていった。だが、かれらの生活は火星崩壊をまねいたことから学び、極度にエコ化していた。
* より暮らしやすい住環境を求めて、宇宙人らは移動しようとしている。
 宇宙人はモニタリングを始めた。
 我々はアバタールの仮想ボディを借り、VR内の首都へ到達。
 アバタールは次元を超えたのだ!
 ハイパー・ロム・カートリッジに仕組まれた異次元世界。
 平安京デジタリア・・・。
『平安京デジタリア』は、デジタリーメイド・サイバースペースの中に存在する、ひとつの国だ。都市国家のようなものかもしれない。だが、それは巨大だ。八十年代ジャパニーズが発案・開発した、自動生成VRワールド。
 都市国家外郭は八世紀頃のジャパニーズデザインを懐古主義的に取り入れているが、その実、サイバーゾーンとして機能しているようだ。
 それは自動的に拡大してゆく、・・・・・五千五百万個のカスタム連結型Z80A集積回路CPUのプロセッシングによって。
 デジタル世界のエルサレム(平和の都市)・・・そうか、それゆえに平安京・・・。
 そこに入る者は『平安京デジタリアン』と呼ばれる。
 デジタルの民。REALか、SURREALか・・・。
 エゴと分化された意識が飛び交うデジタル・エルサレム。
 サイバー・シティ・平安京デジタリアの『平安』は、リアルワールドに直リンクしているらしい。ここが支配されればリアルワールドも『支配』に屈しなければならない。
 タイム・エンペラー・システムは、怒りと憎しみを餌に増長する。
 怒りと憎しみに『支配』されてはならない。
 それは噂なのか真実なのか分からない、だが、『怒りと憎しみに支配された都市は滅ぶ』と言われる。
 我々はアバタールボディを借りVR首都へ飛ぶ。そこはローマの街そっくりにプログラムされていた。
 本物のローマの街と見紛うかの様な風景。実感。
 なぜ開発者はVR首都をローマのように設計したのか。
 ローマに悠久の人類の営みを見たのか。
 VR首都には少数のアバタールが、その時点で住んでいた。住んでいた、というよりはアクセスしていた、・・・何かに導かれるように、我々アバタールは何処からともなく其処に集まって居たと言えるだろう。もちろん、私も彼らもアバタールのデジタルボディでリンクインしていたから、コントローラーたちの素性は互いに誰も知らない。だが、それがサイバースペースだ。
 VR首都にはトラットリアもある。私は其処でスパゲッティとエスプレッソを頂く。なかなかの味だ。トラットリアでは男女の恋の囁きも聴こえる。
 なるほど、ローマ風もわるくない、フェデリコフェリーニが愛した街だ。
 五千五百万個のZ80Aが造り出すサイバースペース。八十年代の設計とはいえ、想像を凌駕している。いや、八十年代こそ、そんな時代じゃなかったか? ウィリアム・ギブソンはサイバースペースの未来を提唱し、ジェネレーションXはその未来の夢を共有した。
 デジタル最先端の北カリフォルニアでは世界初のPC用サイバースペース・ハビタットが企画された。その前年は、一九八五年、ポップカルチャー界では惑星直列と迄言われる夢の爆発時代。
 サイバースペースの覇者となるべく駆り立てるメディアワールド。
 だが、そこに現れたのは悪しき支配者。怒りと憎しみに我を忘れたタイム・エンペラー。彼は失われた謎の力で地竜を甦らせた。巨大な地竜は凶暴なパワーを用い、VR首都を破壊し始めた。
 決戦か・・・。
 アバタールのひとりが私に話しかけた。
「ハイパー・ゴーレムだよ」
「えっ?」
「地竜を倒すのはハイパー・ゴーレムだ」
「あなたは、いったい?」
「わたしだよ」
「プレジデント・・・っ!」
「八十年代は祝福であり呪いだ。我々は次の方向性を模索せねばならない時にある。八十年代が生み出した『よきもの』を保ちつつ、あの時代、ギガントな方向へ、ギガントな方向へ、と膨らみ続けた呪いを捨てねばならない」
「調査財団グループ、って貴方だったのですね、プレジデント」
「放浪は、創造主と人間性の探求の為だった、全て・・・。そう、怒りと憎しみを、怒りと憎しみによって倒すことは出来ない。ハイパー・ゴーレムは、ゆるしの力、愛の力、生命力、・・・本質的な光を解き放つのさ、ほら、エルビスの歌が聴こえてきた。フリーダム。聖母マリア・・・」
 放浪した我々の魂が祈りで一致したとき、古代賢人が隠したハイパー・ゴーレムが動き出す。VRゲームの隠れキャラなのか? 幻惑? 幻想?
 幻? 私は今、どこにいるのだろうか?
 ゴヤの描く巨人のようにハイパー・ゴーレムは光さす雲々を分け、やって来た。グスタフ・マイリンクのゴーレムとは全く別物だ。
 タイム・エンペラーと地竜は、ハイパー・ゴーレムが放った、聖母マリアのような光に包まれ消滅。
 私は、気付くと聖母のメダイを握りしめていた・・・・・。
 今日は何日だ?
 2021年8月15日、・・・聖母マリア被昇天の日。
 霊的なゆるしの日、平和の日、あたらしい旅立ちの日。
3人、飛行機、アウトドアの画像のようです
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